グルメレポート

春の海のごちそう、御宿産「釣りきんめ鯛」はどうやって釣ってるの?

岩和田漁港の船団長を務める吉野力さん「おんじゅく釣りキンメ祭り」にて

煮付けにぴったりの高級魚といえば「キンメダイ」。
御宿で水揚げされたキンメダイは「外房つりきんめ鯛」としてその名を知られ、地域ブランドとしての地位を築いています。
そして、その背景には、
豊かな海を次世代につなげようと持続可能な漁業を実践する漁師たちや、キンメダイをよりおいしく食べてもらいたいと奮闘する人々がいるのです。

つるし雛が飾られ、御宿が鮮やかに彩られる2月の下旬。早春ムードあふれる町中ですが、岩和田漁港にはまだまだ冷たい冬の海風が駆け抜けていきます。
午前10時過ぎ。そんな漁港がにわかに慌ただしくなってきました。キンメ漁を終えた漁師たちが、釣果を携えて続々と帰港してきたのです。

漁を終えた漁師たちが港に戻る 取材日の2019年2月22日は見事な大漁だった

漁船を漁港の岸壁に横付けすると漁師たちは慣れた手つきで、氷の入った大きなクーラーボックスからキンメダイを取り出し、次々とカゴに詰め替えていきます。キンメダイのおいしさにとって鮮度は命。釣り上げた直後から氷で温度管理を行なっています。また、魚体にキズをつけないよう、かかった釣り針も1匹1匹ていねいに取り除きます。

キンメ一匹一匹から丁寧に釣り針を取る

この日はどの船も大漁。カゴに山盛りとなったキンメはかなりの重さですので、二人がかりで持ち上げて軽トラに積み込みます。そして、すぐさま漁港の選別場へと運び込みます。

「ハイ!大13.6、中23.5、小30.1、小々44.5~!」

漁師の威勢のいい掛け声が響く選別場。「大」のキンメダイは全部で13.6キロあったようですね。水揚げされたキンメダイはここで、1匹あたり1.1キロ以上の大モノ「大」を筆頭に「中」「小」「小々」「極小」「極小々」の重量別に選別されます。選別を徹底することで、それぞれのサイズのニーズに見合った出荷ができるようになるのです。手際よく選別を終えたキンメダイは、氷が浮かぶコンテナに入れられて入札の時を待ちます。

サイズ別に選別されたキンメダイ

旅館の若旦那が今夜のお客さんのためにキンメの仕入れにやってくる

選別作業も終盤に差し掛かった頃、港の近くにある旅館「旅の宿 浜よし」の若旦那がやって来ました。キンメダイの「サキドリ」に来たようです。サキドリは、入札で想定される高値で購入することを条件に、入札前のひと足早いタイミングで魚を仕入れことができる仕組みのこと。仕入れ値はやや張りますが、

「御宿のキンメは脂身の旨さと、ふっくらした身質。そして、彩りが魅力的ですから」

と、最もおすすめしたいキンメダイを宿泊客に提供すべく、サキドリを行ないます。

そんな御宿を代表する食を支える漁師の長、岩和田漁港の船団長を務める吉野力(つとむ)さんも、キンメダイの魅力、キンメ漁のやりがいについて、こう語ります。

「煮付けはもちろん、うちでは開いて干物にします。刺身の表面をバーナーで炙って食べる『炙りキンメ』もいいね。落とした頭もダシに使います。漁って自然相手の仕事でしょ。自然のものが食べられるのがいいよね」

「キンメ漁は10年くらい前からやってます。今は計器類が発達してるから、キンメのいるところが分かるけど、潮の流れとかで微妙に魚群が動いたりする。そこを読むのが漁師の腕の見せ所だね」

そんなキンメ漁ですが、ただ単にいっぱい獲れればいいというものではないと、力さんは強調します。

「縄に付けられる釣り針の数は100本以下。操業時間も4時間と決めています。海の資源を守りながら、いつまでも獲り続けられるようにしているんです」

キンメダイは水深200メートル以上の深海に生息しているため、「立て縄釣り」と呼ばれる漁法が採用されています。先端に鉄筋の重りをつけた、数百メートルもの長さの縄を海底に向けて落とし、縄の途中に付いている針でキンメダイを獲るのですが、乱獲しないよう、この釣り針の数を制限しているのです。 同様に、立て縄を仕掛けてから引き上げるまでの操業時間も、これまでは日の出から日没までの時間可能だったのを、現在は4時間に制限して、キンメダイを取り過ぎないようにしています。

「そうした規制に加えて、キンメの産卵時期にあたる7月から9月までは禁漁期間。25センチ未満のキンメは海に戻すなど、資源管理を徹底するようにしています」

と、さらに付け加えて解説するのは、御宿岩和田漁業協同組合の吉野郁夫さん。

御宿岩和田漁業協同組合の吉野郁夫さん

「仕掛ける立て縄も、一人一縄までと決められています。こうした漁獲ルール、鮮度維持や選別の徹底を漁師のみなさんが共有しているおかげで、市場での付加価値が付き、水産資源の保護につながっていくのだと思います」

漁業は後継者不足が叫ばれいていますが、こうした持続可能なキンメ漁という生業(なりわい)に惹かれて、20代のサーファーがキンメ漁師になったりと、ここ御宿では明るい話題も聞くことができます。

御宿のキンメダイは、海を想い、次世代にその豊かさを繋げようとする人たちの、絶え間ない日々の努力に支えられているのです。

釣りきんめ鯛コース ※イメージ

■取材 沼尻亙司
千葉県生まれ。千葉県域の情報誌の編集室に在籍した後、勝浦市の古民家を拠点に「暮ラシカルデザイン編集室」を立ち上げる。「房総の名刺」となる本として、様々なリトルプレスを発行
https://classicaldesign.jimdo.com